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コラム

転勤社員の社宅手配、総務は何から始める?手順と初期費用

「来月から支店に一人出すから、住むところ用意しといて」

社長や役員からこう言われて、この記事にたどり着いた方が多いのではないでしょうか。期限は3週間から1か月。社内に前例はなく、聞ける人もいない。しかも間に合わなければ自分の責任になる。そういう状況で、何から手をつければよいのかをまとめました。

結論:物件を探す前に、3つ決めてください

社員の住まいを会社で用意することになったら、物件を探す前に決めるべきことが3つあります。

  1. 契約名義を法人にするか個人にするか
  2. 家賃をいくら会社が負担するか
  3. 退去時の費用を誰が持つか

この3点が決まらないまま物件を見始めると、申込の段階で必ず聞かれて手戻りが発生し、入居予定日に間に合わなくなります。逆にここさえ固めれば、あとは工程どおりに進みます。

社宅の手配で総務が最初につまずくポイント

住まいの手配を頼まれたとき、多くの担当者はまず賃貸ポータルサイトを開きます。ところが、ここから始めると高い確率で手戻りが発生します。

理由は単純で、物件を申し込む段階で、先ほどの3点をすべて聞かれるからです。

契約名義が決まっていなければ申込書が書けません。会社の負担額が決まっていなければ、予算の上限も決まりません。退去時の費用負担を決めていなければ、社員との間で後から揉めます。

物件を見るのは、条件が固まったあとです。

社宅手配で最初に決める3つのこと

① 契約名義を法人にするか、個人にするか

もっとも影響が大きい選択です。審査の通りやすさ、経理処理、退去時の責任の所在が、すべてここで変わります。詳しくは次の章の比較表をご覧ください。

② 家賃をいくら会社が負担するか

全額を会社が負担するのか、社員から一部を徴収するのか。徴収する場合はいくらか。

なお、社宅として貸与する形と、住宅手当として現金を支給する形とでは、税務上の扱いが異なります。同じ会社負担額でも社員の手取りが変わる場合があるため、制度設計の前に顧問税理士へご確認ください。

③ 退去時の原状回復費用を誰が持つか

これを決めていない会社が非常に多く、実際にトラブルになりやすい部分です。

社員の不注意による損傷は本人負担、通常の使用による損耗は会社負担、といった線引きを、入居前に社内規程か覚書で決めておいてください。退去してから決めようとすると、ほぼ確実に揉めます。

社宅の法人契約と個人契約の違い【比較表】

項目法人契約個人契約(会社が家賃補助)
契約名義会社社員本人
入居審査会社の与信で判断される本人の収入・勤続年数で判断される
必要書類登記事項証明書、決算書など本人の収入証明、住民票など
家賃の支払い会社が支払う本人が支払い、会社が補助
退去時の責任会社が負う本人が負う
社員が退職したら会社が解約、または次の社員へ本人が継続または解約
経理処理地代家賃として計上給与または福利厚生費
社内決裁必要になることが多い不要な場合が多い

入居審査に不安がある場合は、法人契約のほうが通りやすい傾向があります。収入が歩合中心の職種、勤続年数が短い新入社員、外国籍の社員などは、個人契約だと審査に時間がかかることがあります。

一方で、法人契約は必要書類が増え、社内の決裁も必要になります。急ぎの案件では、この事務手続きが期日を圧迫します。

社宅手配の流れ|9工程と総務の作業内容

工程総務がやること目安
1. 条件整理予算、エリア、間取り、入居希望日を決める1〜2日
2. 物件の絞り込み不動産会社へ条件を伝え、候補を受け取る3〜7日
3. 内見本人または担当者が現地を確認する1〜3日
4. 申込申込書の記入、必要書類の準備1〜2日
5. 審査貸主・保証会社の審査を待つ3〜7日
6. 契約重要事項説明を受け、契約書を締結1〜3日
7. 初期費用の入金社内決裁を取り、期日までに振込3〜5日
8. ライフラインの手続き電気・ガス・水道・インターネットの開通手配1〜3日
9. 鍵の受け取り・入居引渡し

遠隔地の物件では、3の内見が最大のボトルネックになります。本人が現地に行けない場合、オンライン内見や動画での確認に対応してもらえるかを、早い段階で確認してください。

また、7の社内決裁を軽く見ないでください。初期費用は数十万円になることがあり、稟議に数日かかる会社では、ここで期日を落とします。

社宅の初期費用の内訳|敷金・礼金・仲介手数料など

物件や地域によって差はありますが、一般的には以下が発生します。

項目内容
敷金退去時の原状回復や滞納に充てられる預り金
礼金貸主に支払う一時金(返還されない)
仲介手数料不動産会社への手数料
保証会社利用料連帯保証人の代わりに保証会社を使う場合
火災保険料加入が条件になっていることが多い
鍵交換費用前の入居者からの交換費用
日割り家賃入居日から月末までの家賃
前家賃翌月分の家賃を前払いするもの

社長への説明で必要になるのは「総額」ではなく「内訳」です。見積書を受け取ったら、この表の項目ごとに整理してから決裁に回すと、質問が出にくくなります。

なお、居住用建物の賃貸借における仲介手数料は、宅地建物取引業法により上限が定められています。金額の妥当性が気になる場合は、契約前に不動産会社へご確認ください。

社宅手配でよくある失敗|エアコンのない部屋だった話

実際に手配した案件で、こんなことがありました。

大阪市内の2LDK、築30年ほどの物件です。フルリノベーション済みで、内装は新築同様。写真で見ても、実際に見てもきれいな部屋でした。

エアコンが設置されていないと分かったのは、引っ越し当日です。入居した社員から連絡が来ました。

管理会社に確認したところ、重要事項説明の際にエアコンが設備に含まれていないことは説明済みで、書面にも記載されているとのことでした。つまり、管理会社に落ち度はありません。手続きは正しく行われていました。

結果として、社員が自費でエアコンを2台購入することになりました。総額でおよそ30万円です。

なぜ防げなかったのか

1. フルリノベーション物件だったこと

内装が新しいと、設備も一式そろっていると思い込みます。実際には、リノベーションの範囲に空調が含まれていない物件があります。写真がきれいなほど、この落とし穴に気づきにくくなります。

2. 重要事項説明を聞いた人と、実際に住む人が違ったこと

説明は確かに行われていました。しかし、その内容が入居する社員と手配を担当する側に、正確に共有されていませんでした。書面に書いてあることと、関係者が理解していることは別です。

社宅の手配では、条件を決める人、契約する人、実際に住む人が別々になります。誰も悪くないのに情報が抜け落ちるのは、この構造が原因です。

3. 「エアコンは付いているもの」という前提を疑わなかったこと

住宅設備のうち、何が備え付けで何が入居者の負担かは物件ごとに違います。当たり前だと思っている設備ほど、確認から漏れます。

この件で失われたもの

金額は30万円ですが、問題はそこだけではありません。

会社の指示で転勤した社員が、住まいの設備に自費で30万円を負担することになりました。転勤そのものへの納得感が下がります。次に転勤を打診したときの反応も変わります。

住まいの手配は、費用の問題であると同時に、社員が会社をどう見るかの問題でもあります。

次回からやっていること

設備一覧を、必ず書面でもらうようにしました。

口頭の確認では足りません。「エアコンはありますか」と聞いて「ありますよ」と言われても、それが1部屋分なのか全室分なのかは分かりません。

契約前に書面で確認しておきたい設備は、たとえば以下です。

分類確認する設備
空調エアコン(設置されている部屋数まで
給湯・調理ガスコンロ(口数・設置済みか)、給湯器、追い焚き機能
水回り洗濯機置き場(室内か室外か)、独立洗面台、温水洗浄便座
照明・内装照明器具、カーテンレール
通信インターネット回線の有無、無料か有料か
駐車場・駐輪場敷地内の有無、月額、空き状況

エアコンは「何部屋に設置されているか」まで確認してください。リビングのみ設置で、寝室にはないというケースがあります。

また、重要事項説明の内容は、実際に住む社員にも共有してください。契約書と重要事項説明書のコピーを渡し、設備欄に目を通してもらうだけで、この種のトラブルはかなり防げます。

実際にかかった期間は3週間

弊社で手配した案件では、依頼を受けてから入居まで、おおむね3週間でした。

一般に社宅の手配は1か月程度と言われますが、それより短く収まっています。理由ははっきりしていて、依頼を受けた時点で条件が決まっていたからです。

予算、エリア、間取り、入居希望日。この4点が最初に固まっていれば、あとは物件の絞り込みから契約までを直線で進められます。

逆に、条件整理から始める場合は4週間を見てください。この記事の冒頭で「物件を探す前に3つ決めてください」と書いたのは、そこで1週間の差がつくからです。

3週間で収まらないケース

以下に当てはまる場合は、さらに余裕が必要です。

条件追加で見る期間
繁忙期(1〜3月)+2週間
遠隔地で本人が内見に行けない+数日〜1週間
入居審査に時間がかかる見込み+1週間
初期費用の稟議に日数がかかる+数日

とくに1〜3月は、条件が固まっていても3週間では厳しいとお考えください。物件の動きが速く、良い条件の部屋は数日で決まります。

入居日から逆算するスケジュール

入居日から見てやっておくべきこと
4週間前3つの条件を決定し、不動産会社へ相談を開始
3週間前候補物件の絞り込みと内見
2週間前申込・審査
1週間前契約・初期費用の入金
3日前ライフラインの開通手配
当日鍵の引渡し

繁忙期(1〜3月)は、この期間では収まりません。物件の動きが速く、審査にも時間がかかるため、さらに2週間程度の余裕を見てください。

よくある質問

Q. 社宅は法人契約と個人契約、どちらを選ぶべきですか

社員の入居審査に不安がある場合や、社員が入れ替わっても同じ部屋を使い続けたい場合は、法人契約が向いています。一方、社員本人に住まいを選ばせたい場合や、社内の決裁を簡素にしたい場合は、個人契約に家賃補助を組み合わせる形が使われます。どちらが有利かは税務上の扱いも含めて変わるため、顧問税理士へのご確認をおすすめします。

Q. 社宅の初期費用はどれくらいかかりますか

物件や地域によって大きく異なりますが、敷金・礼金・仲介手数料・保証会社利用料・火災保険料・鍵交換費用・日割り家賃・前家賃などが発生します。総額ではなく内訳で把握し、社内決裁に必要な日数も含めて逆算してください。

Q. 依頼から入居まで、どれくらいの期間が必要ですか

条件が固まっていれば3〜4週間が一つの目安です。ただし繁忙期や遠隔地の物件、審査に時間がかかるケースではさらに必要になります。内見の調整と社内決裁が、期日を圧迫しやすい2つの工程です。

Q. 社員が短期間で退去することになったら、どうなりますか

契約内容によっては、短期解約違約金が発生する場合があります。1年未満または2年未満での解約時に家賃の1〜2か月分を支払う旨が特約に入っていることがあるため、契約前に必ずご確認ください。

Q. 遠方の物件でも手配できますか

対応可能です。ただし内見の方法が課題になります。本人が現地に行けない場合、オンライン内見や動画での確認に対応してもらえるかを、物件を絞り込む前に確認しておくとスムーズです。

Q. 総務が全部やらないといけませんか

条件整理から契約、ライフラインの手続きまでを社内で完結させることもできますが、工程が多いため、他業務と兼任の担当者には負担が大きくなります。手配の窓口を外部に一本化し、進行管理を任せる方法もあります。

まとめ

社員の住まいの手配を頼まれたら、物件を探す前に3つ決めてください。

  1. 契約名義を法人にするか、個人にするか
  2. 家賃をいくら会社が負担するか
  3. 退去時の費用は誰が持つか

この3点が固まっていれば、あとは9つの工程どおりに進みます。逆に、ここが曖昧なまま物件を見始めると、必ず手戻りが起きます。

執筆者

大木 康嗣(おおき やすつぐ)
株式会社FACXIA 代表取締役


不動産仲介の実務を経験したのち、株式会社FACXIAを設立。法人向けの社宅・転勤手配BPOサービス「Tech Housing」を運営し、実際に企業の住まいの手配を担当している。

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